平岩理緒さんのおすすめ!
スイーツジャーナリスト

敬老の日にもぴったりの縁起物、秋の実り豊かな愛らしい和菓子

木箱の中に収められているのは、和紙で包まれた小さなお菓子。そっと紙を開くと、まるでトリュフチョコレートのような一口菓子が姿を現します。
こちらは、福島県・会津名産の鬼クルミを上質な餡で丸ごと包み、表面に黒糖をまぶしたもの。しっとり、ほろほろとした餡と、カリッと香ばしいクルミの食感との対比が楽しめる、味わい深く上品なお菓子です。

私がこのお菓子を知った時、『古事記』『日本書紀』に登場する不老不死の果物、「非時香木実(時じくの香の木の実)」の名を連想して、とても素敵な名前だなと思いました。
また、「クルミ」は「くるむ=包容」の象徴とされ、さらに「久留美」とも書き、“幾久しく美しさを留める”と言われる縁起のよいもの。
木箱の「長」の焼き印も「長寿」を寿ぎ願うことに繋がり、敬老の日の贈り物をはじめ、お祝い事にぴったりですね。

近年では、大河ドラマ『八重の桜』の舞台にもなった会津の地。会津松平家と言えば、江戸時代の親藩・御家門の一つとして、由緒ある大名家。そんな当地では、お茶席もよく開かれ、それにふさわしい品格のある和菓子をと作られたのが、この「香木実」なのです。

考案した「本家長門屋」は、江戸時代の幕末・嘉永元年(1848年)に、時の会津藩主・松平容敬(かたたか)公から、庶民のためのお菓子を作るよう初代が命を受けたのが始まりという、やはり由緒ある老舗です。

このお菓子の主役となる鬼クルミは、よく見られる西洋クルミに比べて、形は小ぶりで、固い殻を持っています。日本全国でも流通量の少ない、希少な品種です。
四方を山に囲まれた会津は、夏は暑く冬は雪深い土地柄。磐梯山の伏流水が流れ、空気も清らかなこの郷には、秋にはたくさんの木の実が実り、地元の人々の生活に無くてはならないものでした。
中でも鬼クルミは、渋みが無く油分を多く含み、噛みしめると何とも言えない香ばしさ、そして滋味豊かでほのかな甘みが広がります。そんな鬼クルミの味わいを最大限に活かすべく、このお菓子が誕生しました。

周りを包む餡は、少し目を離しただけでも銅鍋の底が焦げ付いてしまい、炊き上げるのがとても難しいため、じっくり3時間程、職人が付きっきりで面倒を見るそう。その日の気温や湿度に合わせて、職人の目と勘で見極めて炊き上げた餡を、そのまますぐは使わず、少し寝かせます。すると、餡を丸める頃にはちょうど良く小豆と砂糖とがなじみ、味のバランスが良くなるという具合。
さらに、外側にまぶす特上の黒糖も、使う直前にふるいで細かく振るうことで、よりきめの細かい、口どけの良い後味に仕上げているそう。

本当に丁寧に、一つ一つ大切に手作りされた、大切な人に思いを伝えるのにふさわしい一品ですね。

日本茶ばかりでなくコーヒーとも相性抜群で、くるみの香ばしさが引き立ちます。“和モダン”のイメージで、若い方へのプレゼントや結婚式の引き出物にもお勧めですよ。

おいしそう! 32

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