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平岩理緒さん(スイーツジャーナリスト)

美しすぎる紅の世界、若手職人が生み出した革新と伝統の琥珀糖

 NANASAN MIO(ナナサン ミオ)

2020年春、和菓子店同士のコラボ企画がきっかけでこちらのお店を知り、ホームページを拝見した時、「なんて美しいお菓子だろう……」と、目を奪われました。10個並んだ七角形の多面体は、あでやかな紅の炎を内側に秘めた宝石のよう。食べてみたい!と激しく心惹かれました。

口にすると、琥珀糖ならではの、外側のシャリッとした食感と中のやわらかさとの対比。さらに底の方に閉じ込められた色鮮やかな赤紫色のゼリーは、小さな立方体にカットされていて、もちっとした弾力。食べるときゅんと甘酸っぱい!

このゼリーが周囲の多面体に反射して、何とも言えない美しい色彩を見せます。この複雑な形は、表面積を増やすことで、結晶化したシャリ感をより多く感じさせる工夫でもあるそうです。

このお菓子を発信するブランド「NANASAN(ななさん)」は、琵琶湖の北西に位置する滋賀県高島市安曇川町(あどがわちょう)に本店を構える和菓子店「とも栄(ともえ)」から生まれました。

お店は昭和7年(1932年)創業ですが、2017年、四代目の西沢勝仁氏と有莉さんご夫妻が、自身のブランドとしてこのプロジェクトをスタート。安曇川で生産される「アドベリー」を軸とする和菓子を提案しています。

「アドベリー」は木苺の仲間の「ボイセンベリー」と呼ばれる果実で、日本ではほとんど栽培されていません。形はラズベリーやブラックベリーに近いですが、ちょうどその中間のような、鮮やかな赤紫色をしています。

6月中旬から7月上旬の収穫期に、完熟した果実を1つずつ手摘みしますが、実がデリケートで日持ちしないため、生の果実が市場に出回ることは滅多にありません。ポリフェノールが豊富で、アントシアニンや葉酸など、様々な栄養成分を含むことでも注目されているそうです。

安曇川では、このボイセンベリーを日本国内で初めて商業化栽培することに成功し、「アドベリー」と命名して地域の特産品として発信し始めています。若い職人ご夫妻が、そんな故郷の新しい挑戦に共感し、新しい和菓子として表現を試みているのは、素晴らしいことですね。

「NANASAN」というネーミングには、古来より安曇川の水運を見守り、川の魔物を取り除くとして信仰されてきた神様「シコブチ」を祀った七つの社殿のご加護が、アドベリーを育む安曇川下流の三角州にももたらされるように、との願いが込められているそう。「MIO」という商品名も、水の流れや船の通り道を表す古語、「澪(みお)」から名付けられています。

今後も、ブランド名にあやかって、革新的な試みを「7」、伝統的な技法を「3」とする、「革新7:伝統3」という考えに基づいて商品開発をしていくとのことで、楽しみですね。

ガラス器にのせようか、白いお皿にするか、或いは安曇川の流れを思わせる薄水色のお皿は?などと、合わせる食器を考えるのも楽しくなります。自家用にはもちろん、ギフトとしても喜ばれる美しさです。

平岩理緒さん(スイーツジャーナリスト)

スイーツ情報WEB「幸せのケーキ共和国」主宰。スイーツジャーナリストとして全国銘菓に精通し、TV・雑誌等各メディアで発信。「All About」スイーツガイドも務める。イベント企画や司会、企業や自治体のスイーツ開発など幅広く活動。セミナーや製菓系学校での講師も務める。TVチャンピオン「デパ地下グルメ選手権」優勝。著書に『東京最高のパティスリー』(ぴあ)、『まんぷく東京 レアもの絶品スイーツ』(KADOKAWA)等。『厳選スイーツ手帳』・『厳選ショコラ手帖』(世界文化社)を監修。

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『まんぷく東京 レアもの絶品スイーツ』&『東京最高のパティスリー』
監修本『厳選スイーツ手帖』(世界文化社)
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