お取り寄せの達人のオススメ!
松浦達也さん(フードアクティビスト/ライター/編集者)
ワインや日本酒が何倍にもおいしくなる、白カビ熟成の乾燥ソーセージ
情熱や執念だけが作り上げることができる味があります。飛騨高山にあるソーセージ工房の「キュルノンチュエ」の白かび熟成の乾燥ソーセージはまさにそんな味わいです。
創業は1998年。その数年前、ソーセージづくりに魅了された創業者の山岡準治さんが50代にしてフランスの燻製肉店に飛び込んで3年間の修業を積み、60代でこの地に自宅兼工房を構えました。開業前は素人同然だった元会社員が、当時日本ではほとんど見かけることのなかったフランスのシャルキュトリ(加工肉)を製造・販売し始めたのです。
キュルノンチュエの加工肉の仕込みは、フランスのシャルキュトリづくりそのままです。挽いたばかりの鹿児島県産の黒豚にフランス・ブルターニュ地方の「ゲランド塩田の天日乾燥塩」や瀬戸内「伯方の塩」などのブレンド塩やスパイスを加え、低温で練り上げたものを腸に詰めます。
その腸詰めにフランスにルーツを持つ白カビをまとわせて吊るし、じっくりと水分を抜きながら乾燥・熟成させていきます。3週間吊るせば、びっしりと白カビをまとった白かび熟成の乾燥ソーセージ――ソオスィソン・セック “フルール ・ブランシュ”のできあがり。
吊るしの間に水分は抜け、腸詰めはサラミのような硬さを獲得します。白いカビのついた表面に斜めに包丁を入れ、3mm幅にスライスするのがおすすめ。
クッとひと噛みすれば、塩せきした肉ならではのまろみを帯びた塩味が、肉の芳醇さやジューシーな脂身とともに口のなかいっぱいに広がります。同時にナッツや熟成チーズのような熟成香は胡椒の香りをともなって口内から鼻へと抜けていきます。
この一片だけでも十分すぎるほどおいしいのですが、お好きな方はぜひ手元にワインのご用意を。ソーセージのおいしさが何倍にも引き立ちます。このソーセージは、泡、白、赤など合わせるワインを選びません。
スパークリングワインでジューシーな脂を流すのもいいし、白で豚肉の野趣との合わせを楽しむのも最高です。赤は熟成した肉や胡椒のニュアンスとの相性がよく、現在のシャルキュトリの製造責任者(シャルキュティエ)は日本酒と合わせるのがお好きだと聞きます。ワインや日本酒など、醸造酒との相性は抜群ですし、なんならウイスキーや焼酎などの蒸留酒にもきっちり合います。
実はキュルノンチュエの白カビソーセージの発売当初は苦戦する期間が長かったといいます。白カビはカマンベールチーズなどに活用されていますが、カビを食べるという行為に対する抵抗感と、塩気の強さはともかく、噛みごたえのある硬い食感が白飯に合わないなどの理由で、売れ行きも芳しくなかったそう。
しかしワイン愛好家や旅行好きなどのフランス通や新しい美味しさを求める人々の口コミで顧客層は広がり、いまでは「白かび熟成の乾燥ソーセージ」はキュルノンチュエを象徴する商品となりました。
変わらぬ味わいの目印は、細長い白い紙袋にかけられた水色のリボン。中から細長いソーセージを取り出して、存分にその味と香り、そしてお酒とのペアリングを楽しんでみてください。
松浦達也さん(フードアクティビスト/ライター/編集者)
調理の仕組みや科学、食文化史などを踏まえ、料理誌・一般誌・新聞・書籍・Webまで幅広く執筆・編集を手がける。テレビ等で食トレンドやニュース解説も。著書『大人の肉ドリル』は肉好きのバイブルとしてロングセラーに。他『新しい卵ドリル』(以上マガジンハウス)、『ハイボールとつまみ』(主婦の友社 ※監修)や、共著も審査員をつとめるレストラン年鑑『東京最高のレストラン』(ぴあ)ほか多数。マンガ大賞選考員、日本BBQ協会公認BBQ上級インストラクターでもある。
[ウェブサイト] 食とグルメ、本当のナイショ話 -生産現場から飲食店まで-(Yahoo! ニュース個人)