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chicoさん(スイーツライター)

日本古来の柑橘とシルキーなチーズケーキで楽しむ、悠久の味わい

 シルクチーズケーキ ハーフ2本 大和橘ジャム

またすごいチーズケーキに出合ってしまいました。その名の通り、シルクのようにどこまでも滑らかに舌にとろけると、たちまち爽やかな酸味とミルキーなコクに包まれます。

さらに楽しいのがジャムとのペアリングで、大和橘ジャムを合わせるとまた違う世界へ。甘酸っぱさと山椒にも似た清々しさが広がり、果皮の心地よいビター感がチーズケーキのまろみと心地よく混ざり合っていきます。

『奈良御菓子製造所 ocasi』は工芸雑貨の『中川政七商店』が、創業地である奈良を元気にするべく始めたお菓子屋。他業種がスイーツに携わることも珍しくはないよね、くらいに思っていたら、一口でその味に引き込まれ、ストーリーを聞くほどにどんどん惹かれてしまいました。

実は日本のお菓子の起源は奈良にあり、奈良時代、「菓子」は「果物」のことでした。その後、海外のお菓子が伝わるにつれ、果物は「水菓子」と呼ばれるようになり、「洋菓子」、「和菓子」と分かれていったとか。

そんな変化を遂げた3種の「菓子」を重ねることで、伝統と新しさが混ざり合うスイーツを提案しているそう。チーズケーキ(洋菓子)にジャム(水菓子)をペアリングさせるのにも、そんな哲学があるわけです。

また、チーズケーキを出すのも、飛鳥時代に主に奈良で作られていた日本最古のチーズ、「蘇」からのインスピレーション。加えて西洋から伝わりながら、スフレ、レアなど日本で独自に進化したチーズケーキの歴史にも思いを馳せ、そこからさらに一歩先のチーズケーキへ、前進させています。

フレンチシェフが開発したレシピと、和菓子職人の丁寧な仕事を融合させ、目指したのはシルクロードを経て奈良に伝わった絹織物みたいな滑らかさ。

こくあるクリームチーズにサワークリームの酸味、生クリームときび糖を合わせて乳の奥行きを出したら、裏漉しを重ね、じっくり湯煎焼きしていくそう。細やかに手をかけることで、この味わいと奥深くクリーミーながら軽やかな口溶けが生まれるのです。

ジャムに使う大和橘は、奈良に育つ日本最古の柑橘。奈良時代から親しまれ、万葉集でもたびたび詠まれています。古事記や日本書紀では、不老不死の霊薬としても登場した日本固有の原種。その凛とした香りの皮ときれいな苦味がある果肉に合わせるのは、カルダモンやコリアンダー!爽やかさの中に豊かな奥行きを醸してくれます。

思いがけない組み合わせのようですが、実は日本のスパイス発祥の地も奈良なのだそう。シルクロードから運ばれた世界中の宝物を集めた「正倉院」の御物の中に、クローブやシナモンなども収められていて、薬として扱われていたとか。何も考えなくともおいしいチーズケーキですが、悠久の時の流れをまで楽しめる味わい深さを秘めているのです。

chicoさん(スイーツライター)

スイーツトレンドに精通し、「anan」や「Hanako」、「ELLE goumet」はじめ多数の雑誌やWeb、TVでスイーツ記事の執筆や特集企画監修・出演を行うほか、ギフトのセレクトショップ、ECサイトなどでスイーツ監修も手がける。「anan」で「Food topics 〜chicoのお菓子な宝物」、「SALUS」で「もらって嬉しい手土産スイーツ」を連載中。『東京の本当においしいスイーツ探し』シリーズ監修。共著に『東京最高のパティスリー』。

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